嬉しくて哀しい心筋症

たこつぼ心筋症:女性特有で感情的動揺時におこりやすい、日本発症の有名な心臓病があります。広島市民病院の先生が、1990年あたりに提唱した、たこつぼ心筋症です。臨床実習で習ったことのある先生です。心筋梗塞同様の心筋の部分的な梗塞がおこります。特徴として比較的高齢女性に多い、精神的ストレス影響する、心臓の先端が心電図変化とともに虚血に陥り筋肉収縮を停止してしまう、冠動脈造影では年齢相応の変化にとどまり必ずしも100%病変があるわけでない、1か月もすると徐々に何故か回復する。しかし突然の発症で心筋梗塞同様にショックや不整脈で急死に至るケースもあります。感情的に豊かなマダムで、白衣高血圧で血圧が220/110なんかになる人をみると、今晩寝ていて夢見が悪くて、たこつぼにならなければといつも思います。外来にも経験者おられます。

 

Clinical Features and Outcomes of Takotsubo (Stress) Cardiomyopathy.

ニューイングランド2015年9月3日号 日本の先生方はなぜか混ぜてもらえませんでしたが、スイス主導で欧州連合のたこつぼ症例の論文です。1750人のたこつぼを集めたようです。勉強になったのは、確かに女性が90%の病気であるということと、通常の心筋梗塞の集団に比べて動脈硬化としては弱そうである、心機能が若干悪い人に多く、過換気で頻脈の人に多かったことでしょうか。噂にたがわず、精神的病気やストレスが引き金となるのがたこつぼでは50%に対して通常の心筋梗塞では25%であったということです。予後は心筋梗塞後よりは心機能が回復する分よいのか、10年生存80%、しかし心血管病は10年のうちに40%はおこると予想する曲線がありました。

Happy heart syndrome: role of positive emotional stress in takotsubo syndrome.

European Heart Journalヨーロッパ心臓雑誌2016年3月2日号

楽しい時症候群というキャッチを広めるため、たこつぼを利用している論文です。女性は90%を占めるという点は、一貫して変わらない頻度でした。上の論文の人達のスピンオフ論文でしょう。感情的変化で引き起こされたたこつぼ480人のうち20人が楽しい時(happy heart)に起こったようです。悲しいタコツボは(broken heart)460人は、どういう心理状況であったかというと、肉親の死のような嘆き等107人、病気事故等によるパニック107人、家族喧嘩など78人、大変な怒り77人、金銭的おちこみ37人でした。うれしいタコツボはどういうときか、おばあちゃんの盛大な誕生日によく起こっていたようです。孫にかこまれて幸せのパーティーで、胸痛発作救急車という状況だったのでししょう。芭蕉の、おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉 から,よく川柳で引用されますが。愉しくてやがて哀しき蛸壺哉。

幸福感と健康についてしばらく勉強します。