Thrombectomy 6 to 24 Hours after Stroke with a Mismatch between Deficit and Infarct. ニューイングランド2018年新年号
血栓による脳梗塞があります。血栓塊が飛び塞栓となる脳梗塞です。心房細動患者さんではざっくり年間20人に一人が大梗塞に陥ります。ゴールデンアワーの発症3時間(最大4時間)までは血栓を溶かす治療を行えるようになっています。神経内科と脳外科医が対になって東京でも救急ネットワークがあります。脳梗塞発生時間を見て、異常高血圧、脳動脈瘤、体の動脈瘤や解離、すでに抗凝固内服中、胃十二指腸潰瘍出血中などを除外して、血栓溶解療法施行し、梗塞範囲の縮小と麻痺改善で機能改善を期待するわけです。溶かす時期が限定されるのは、①梗塞巣はすぐに周辺から出血がはじまるのであまり遅い時間に溶かすと、大出血脳出血がこわい②正座長くして立ち上がるとジンジンするように、長時間虚血を無理やり解除すると脳細胞が破壊される再灌流障害がこわい、によります。
上の論文は血栓を血管から除去しようという治療です。腕や足の動脈血栓の手術をしていましたからなんとなく予想がつきましたが、適応を選べば脳梗塞の血栓除去も秀逸です。また6時間から24時間たった脳梗塞におこなったことが画期的に感じました。内頚動脈や中大脳動脈の血栓によって大きな麻痺があるのに梗塞に陥った領域が画像上小さい患者さんを200名募りました(血栓溶解療法を敢行した患者さんも20名近くいました)。100名はそのまま薬だけの保存治療、100名は発症後6時間以上に血栓除去を行う危険性を説明した上でしょうが血栓除去を行いました。カテーテルをもちいて特殊な血栓を絡めとるデバイスで回収したり、吸引したりしました。結果は双方90日以内の死亡は40人近く出るという大血管閉塞の恐ろしさでした。麻痺の改善は格段に生き残った血栓除去群に認められたため、トライアルは200例で血栓除去組の勝ちとして無事終わりました。6時間脳梗塞に気づかないのかという疑問があります。意識がなくなって玄関で倒れているとか、朝起きたら右半身が麻痺していたような状況では発症からの正確な時間はわかりません。わからないから血栓溶解もできないので何もせず様子を見てリハビリで頑張ろうとなるわけです。一か八かで劇薬投与して神頼みするより、実際に原因除去するほうがすっきりした治療になると思います。自分が患者ならそのまま麻痺がのこったりするぐらいなら、一か八か血栓除去に賭けてみたいです。吸引療法は日本でも最近行われていますが、発症後8時間まで、血栓溶解を行った症例には適応されないようです。
発症早期に血栓除去する方向になるのか、血栓溶解剤の点滴がいいのか、今後はどうも血栓除去になるとおもいます。心筋梗塞の世界では、25年前に血栓溶解の全身投与が治療の先駆けになって、その後カテーテルで直接冠動脈の血栓を溶かす時代、その後はカテーテルで血栓を吸引して冠動脈の病変を削ったり広げたりして冠血流を早期に再灌流させる時代になりました。直接病変をコントロールする技術が向上したため、ゴールデンアワーの4時間なども何倍も長くなってきています。心筋梗塞は循環器内科で一話完結する時代になりました。心臓外科は治療後の破裂や断裂などという、恐ろしい事態が起こった時だけ登場することになりました。