ワーファリンの遺伝子

Effect of Genotype-Guided Warfarin Dosing on Clinical Events and Anticoagulation Control Among Patients Undergoing Hip or Knee Arthroplasty: The GIFT Randomized Clinical Trial. アメリカ医師会雑誌 JAMA 2017年9月号

 

新しい抗凝固剤で盛り上がっている、昨今ですが。ワーファリンについてもっと有益な研究がアメリカではしっかりなされています。小生も、20年前豪州で100kg越えの巨体のおっさんがたった0.5mgで弁置換後の維持量になったり、中国系の小さいおばちゃんが5mgで効かなくてパラミジンを追加したりして、人種差があると思っていました。薬の効果は人それぞれであるのは、薬理遺伝学ファーマコジェネティックスが関与していることが、この10年で明らかになっています。アジア人にはVKORC1の発現者の中にワーファリンの効きが悪いことがわかっています。これをワーファリン必要な事態発生である、心房細動や弁置換や深部静脈血栓などで数日間おきの頻回の採血でようやく維持量がわかるのが現実です。遺伝子発現がわかっていたら、小柄女性でもいきなり5mgからスタートすれば、早く維持量になるし、事故防止につながるというわけです。山勘でワーファリンをコントロールしているのが、世界の循環器系医師のリアルワールドです。この論文は、遺伝子解析と股関節手術後に頻発する深部静脈血栓予防の解析です。遺伝子解析でワーファリンによる予防治療vs 山勘ワーファリン治療。1600人を山分けして解析で、双方それぞれ87人 対 116人の大出血や血栓患者などの大事故が出現したようです。有意差は付きましたが、せっかく遺伝子解析したのに、20対116みたいにはなりませんでした。遺伝子解析の結果でどういう風にコントロールして、どのようにきめ細かく微調整したかは補足を読んでもわかりませんでした。欧米のざっくりした管理でこの結果になったのでは?遺伝子解析で予測可能みたいな画期性は臨床の世界にはないということです。ただし日本人に多い第16染色体にあるVKORC1はビタミンKに関与する蛋白をコードしており、野生株、ヘテロ、homoに分かれて、homoは米国で16%にも出現して(日本ではもっと多いでしょう)、ワーファリンの効きが悪い原因になります。数千万円の機械ではかれるSNP解析なら、保険診療になれば、廉価ながらも劇薬ながら年余にわたるワーファリン由来の大事故はかなり抑えられると思います。大事故での数百万円の医療費用と一回だけ数万円の遺伝子検査。