アポトーシスと象さん

p53 and Me (p53と私)ニューイングランド 2018 5月30日

p53遺伝子とは、アポトーシスの親玉の遺伝子です。細胞の生命輪廻の根本で、細胞は計画されて休止するのが アポトーシスです。アポトーシス発動にて、細胞は活動を休止して、自然に解体され再利用サイクルに輪廻します。反対語の壊死(ネクローシス)したらそのごみを再利用する道は断たれて、吸収排泄に長期間かかるし、感染や発がんの元凶になります。プログラムされた細胞休止があるから、老化を防いだり、発がん前に休止させるメカニズムを保つわけです。このp53遺伝子を人間は1対もっていますが、これに変異が起きる病気があるようです。若年性発がんの難病リ・フラウメニ症候群 (Li-Fraumeni Syndrome)です。この雑誌上のエッセイは30歳ぐらいの若い内科女医によって書かれたものです。本人が骨肉腫を若いころ克服して、医学生時代に乳がんの治療を行って、そのあとこの遺伝子異常が指摘されたようです。医学生、医師としての苦悩、精神状況、をつづっていました。

この遺伝子を大量に保有して、発がんが少ない動物がいます。象さんです。2015年に一時話題になっていましたが、フーンという程度でしたが、元の論文を探しました。

 Potential Mechanisms for Cancer Resistance in Elephants and Comparative Cellular Response to DNA Damage in Humans.JAMA 2015 11月17日

 動物の種類や大きさでの発がんについては、癌の塊の動物は30cmのタスマニアンデビルで半数が癌死、その次がチータで20%、イヌは10%ぐらい、ヒトは20%ぐらい、ライオンは肉食なのに2%のみ癌死、象さんは極端にでかく極端に長生きですが4%の癌死でした。人間と同じくらいの寿命で4%と20%の差がなんだろうということになって象の遺伝子を生物学者たちが研究しました。象さんはp53遺伝子を20対ももっているので、さてはこれが癌を制圧しているのかと疑いました。しかしながら、遺伝子が多いからといって、良いことばかり起きるとは考えません。遺伝子には、何のタンパク質も作らないし何を制御しているかもわからないけど、いないと変な気持ちになる窓際族みたいなのが97%存在しています(ジャンク遺伝子)。多くp53持ってても機能の定量が科学的証明に必要です。そこでアポトーシスの程度を調べる実験をしたようです。リンパ球をいじめてアポトーシスの能力を見る検査があるようです。それをすると、ざっくり、先の遺伝病の人 対 普通の人 対 象さんで1 対 2対 3という結果があったようです。象さんはアポトーシス能力高いから癌になりにくいのか?という結論でした。アポトーシス多ければいいのかというとアポトーシス激しい早老で短い寿命ののウエルナー症候群は有名です。科学の世界は深淵で、p53が多いだけで、癌死が防げるという結論はまだ下されていません。

 タスマニアンデビルとP53をみてみました。そういうのを調べようと思うのはよほどマニアックな性格なのか、たった一つだけ論文がありました。オーストラリアの生物学生態学のチームから、タスマニアンデビルのは、あいさつ代わりにお互いの顔をかじるくせがあるようです。その咬み傷から、とある物質がイニシエーターとなる、顔の腫瘍できるとのことで、p53は無罪放免でした。オーストラリアは自然大好きですから、タスマニアンデビルの腫瘍を治したいという、動物愛護マニアなお国柄を表していました。