虫垂炎と腸内細菌

Culture-Independent Evaluation of the Appendix and Rectum Microbiomes in Children with and without Appendicitis.

PLOS one 2014年4月号

日本人は繊維質をとらなくなったから、虫垂炎になりにくくなった印象を、外科を専攻したものとしては、もっています。セルロース分解に関係する、ヒトでは痕跡的な虫垂が炎症するわけですから。炎症のもとになる起因菌は、繊維質摂取に関係する腸内細菌なのかどうかも気になります。周知の事実と思ってましたが、虫垂炎の起因菌さえも、研究は少なく。諸説紛々でした。しかしまた例の遺伝子解析で、いろいろ研究が前進しつつあるところということがわかりました。

抗生剤を数日でも使用すると、全く異なるフローラになって、起因菌はわからないようです。腹が痛くて虫垂摘出、虫垂炎陰性(摘出して炎症があまりないことも現場ではあります)と虫垂炎(軽度の炎症から穿孔まで程度は色々です)であったのとをくらべていました。プレボテラが穿孔虫垂炎に出現していました。前出した、繊維分の多い食事の文化圏に多い菌種です。

その他虫垂炎の起因菌をみつけようとする論文が多々ありますが、これが虫垂炎の悪玉菌だという論文はありませんでした。Fusobacterium属に大腸がん、潰瘍性大腸炎、虫垂炎の悪玉説もありますが、今後の課題のようです。培養とDNA&RNA鑑定では結果が異なることに注意する必要があります。生菌で嫌気性菌の悪い奴を培養できればいいですが、採取してすぐに空気に触れて死んでしまったり、培地に含まれる抗生剤で死んでしまったり、いろいろ難しいようです。遺伝子検査はあらゆるものに反応しますから、コンタミネーション(検査中に混じっちゃった菌)や炎症出現前の死菌にも反応することが問題です。遺伝子検査の機器が数千万円クラスですので、先進国の研究室には常備しているところもあって、いろいろな場所で、いろいろなフローラで検討されています。遺伝子や培養検査を駆使しても、巧緻に何万年積み重なった、フローラの謎を攻略することはまだまだ難しいようです。あと数回実際の整腸剤やヨーグルトの学術誌上からのエビデンスについて調べてゆきます。