本邦発、新しいインフルの薬

Baloxavir marboxil for uncomplicated influenza in adults and adlescents.

ニューイングランド 2018年9月6日号

日本開発のインフルエンザ治療薬、一回内服投与、のゾフルーザ、堂々のNEJM登場です。タミフルなどは、M2イオンチャンネル阻害剤という言い方をしていました。タミフルなどの既存のものは、インフルエンザが宿主細胞内で増殖しノイラミニダーゼで細胞を破ろうとするのをブロックするという、‘殺菌的“でなく、”静菌的“です。ゾフルーザは直接、宿主細胞内で増殖を防ぐメカニズムです。RNAウイルスのインフルエンザは、宿主細胞核内に到達すると、メッセンジャーRNAに引っ付いてその核酸情報を溶かすウイルス固有のポリメラーゼをだします。RNAをかじって自分用のレプリカを作って増殖します。インフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体は、PB1というかじる酵素(RNAポリメラーゼ)、PB2という宿主の帽子(キャップ)にひっつくユニット、PAという脱出するためのポリメラーゼの3つで構成。3者それぞれ、薬品開発を試みて、PAの阻害剤が日の目を見たということです。Selective inhibitor of influenza cap-dependent endonucleaseというのが正式名称です。第三相試験の結果がでていました。プラセボは症状落ち着くのに5日、タミフルは3日、この薬は2日という結果、効果ありということでした。副作用は下痢程度。

抗ウイルス剤の創薬は、小さすぎて体内で病原体そのものを攻撃できないのでやっかいです。ウイルスの構造研究にはじまり、宿主細胞侵入から脱出のどの部分にバリケードをはったらいいかを、この30年間、世界中の研究者が知恵を絞り、最近は日の目をみています。

細胞膜侵入(インターフェロンα、抗HIV侵入阻害剤)、細胞質で核までの到達(昔からインフルやパーキンソンのアマンタジン、HIVやB肝の逆転写酵素阻害剤)、核内侵入(インテグラーゼ阻害剤)、増殖(ヘルペス、サイトメガロ、C肝)、核外脱出(この薬?)、細胞膜輸送、再脱出(プロテアーゼ阻害剤や抗インフルエンザ薬)。それぞれに抑えたり、阻害したり、いろんな薬が考えられます。まずはマウスで感触を得て、藁をもすがるエイズの患者さんでかたっぱっしから、世界中のメーカーが研究して、それこそ藁の中の針を探すような過程の中で、これらの薬をみいだしたのです。

いまではエイズも肝炎もある程度制圧できるようになりました。インフルエンザも5日間熱にうなされることなく、3日うなされる薬から、さらに一日だけですが短縮しました。しかし、添付文書を見ると、すでに耐性がみられているとのこと、発売すぐに耐性ポリメラーゼのあるウイルスにマイナーチェンジしたものか、インフルエンザ制圧は険しい道のりです。