ポストコロナー 脱ぐ時こわい防護服

手術をする外科系の医者の特徴は、まず早飯で服の脱ぎ着が異様に早いことである。また爪を異様に深爪しているが、長年ブラシで指先をこすっているから、見た目ほど痛くない。そして、処置や生活や診察の中で常に考えているのが、清潔か不潔の概念である。すなわち自分は犠牲になって汚染されても、患者さんに被害がないようにするということである。理容師が考えずに髪を切ったり、ひげをそったりするように、無意識に清潔と不潔をわきまえるということである。手術台の前に立つまで、スクラブに早く着替え、帽子マスクを適切につける、長髪の外科医であれば髪を帽子から出さない。長髪は今でも少ない。20年前スクラブを着ていたのは、麻酔医と外科医、手術室とICUのナース限定で、それが航空母艦の色分けTシャツのように、病院内での職種IDになっていた。現在ではマッサージ系の人まで通販で買って着ており、患者急変などの時に誰がなんだかわからなくなって、困ると思う。

手術場に立つまでも、厳しく仕込まれる作法がたくさんある。手の洗い方、手術着の着方、着た後の基本姿勢。手術がすんだら、直ちに、ゴム手袋をダビデのごとく、パチンコ銃の要領でゴミ箱に発射する。バリバリと手術着を破り捨てて脱いで、ぽいと捨てる。手術の術衣を着るまでは大変であるが、脱ぐときは、あまり大変でないのである。血の付いた手袋でスクラブに触らない程度の配慮で、あまりそこに概念はない。外科は手術防御服を着るまでが大変ということである

逆に、コロナファイターは防護服を脱ぐときの方が危険なのだ。

コロナの患者さんを管理する、鼻腔咽頭拭いなどの作業をする人、コロナファイターは大変である。防御の服を着るとき、自分の肌が露出しないようにするのと脱ぐときに自分に感染が及ばないようにするため、着るときから細心の注意が必要である。N-95マスクを30分つけて、会議をしたことがあるが、息苦しくて、外したくなったことがある。息苦しい、二人がかりできる着ぐるみとN-95マスクを着けて何時間も、患者の観察、投薬、採血、吸痰、清拭、排泄処理をするのである。ファイター自身がおむつを履いて望むこともあるという。目からの湿気でゴーグルが曇ると患者も自分も命とり、二重手袋では血管の細い人の採血や小児の採血は至難であろう。集中治療管理では挿管操作もあろうが、飛沫を頭から浴びるので、歯科医が使うバキュームなどが用意されているようである。この格好で1cmの創の縫合も訓練しないとできそうにもない。シフトが終わって、ほっとしたところで、もう一回、恐怖を味わうことになる。防御着を脱ぐ作業である。二人がかりで大量のアルコールでゴム手袋を消毒しつつ、中の人が汚染されないように裏返しにするように脱ぐきっかけを作る。自分はうまい具合に、服の裏側を内手袋をつかって慎重に丸めるようにして、廃棄入れに入れる。患者に正対しているので一番飛沫の少なそうな後頭部からゴーグルや帽子を廃棄する。最後の砦の内手袋は、間違ってもダビデのようにゴムをはじいて、ゴミ箱に入れるようなことをしてはならない。安物でも一回1000円相当を、廃棄するだけでも、素人と玄人では差が出る。なんとか自分に感染させないという、防衛本能がよほど発達した人以外、数十回訓練しても、どんなに頭脳明晰でも、脱ぐときのコロナ被ばくは防げないであろう。外科経験者は防護服を着ての作業に熟練しているからといって、押っ取り刀でコロナの現場にでていっては、脱ぐ時にしくじって、討ち死にするかもしれない。自分ももし駆り出されたら、一回本物のプロの技を観察してから、応援したいものである。

こうち医院では、感冒患者を診るときは、基本帽子、N-95、ゴーグル、手袋、ガウン、強盗マスクで首をかくす、雪かきの膝までの長靴(本物の時は膝までの滅菌足袋)。拭うときは、正対せず、斜で患者さんの口を換気方向にしています。脱ぐときは、ガウンと手袋の介助者に、背中のひもをとってもらって、手袋内に丸めて入れられるように練習しました。最後に頭のものを取ります、ゴーグルは市販のものを4つ買って、手術台に出せるぐらいに消毒して、再利用せざるを得ません。ゴムは痛まないのですが、耳と顔がかぶれます。貴重すぎる高機能マスクは紫外線で滅菌して72時間ごとにローテーションしています。