かくれ甲状腺機能低下

Subclinical Hypothyroidism.

ニューイングランド2017年6月号

甲状腺機能低下症は、女性に罹患しやすいもので、いわゆる橋本病という自己免疫疾患がベースにあることが多いです、閉経後、妊娠中、出産後などのイベント時に、だるい、つらいなどの愁訴がおこり、放置にて心不全や肥満症と間違えられる浮腫につながります。うつ状態になって仕事をやめたり、精神科に通院してしまう方もいます。いわゆる不妊の原因になるし、更年期障害と看過されていることもあります。重篤になる前に、甲状腺ホルモンの測定と下垂体からの甲状腺を刺激するホルモンの測定、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体の測定にて確定診断できます。治療は、機能亢進のバセドウより単純で、甲状腺ホルモン投与で改善します。当院では一応、治療の初めは有名な表参道の専門病院に紹介して、安定期に当院で治療を継続するようにしています。

 この論文では甲状腺自己免疫疾患による機能低下ではなくて、もっと症状の乏しいレベルの潜在的な低下症に対する、提言です。臨床上、大手術術後の方、不定愁訴の多い女性、元気のない高齢者に散見されます。甲状腺ホルモン値は正常低値で下垂体からの甲状腺刺激ホルモンが高い、自己抗体は陽性の人もいれば陰性の人もいます。一番の症状はうつ的な傾向、疲れやすさ、筋力の低下、物忘れです。疑い深い私は昔からこの隠れ甲状腺機能低下に目をつけていました。ニューイングランドに特集が登場し、今後は臨床応用します。ニューイングランドでは、70歳以下で甲状腺刺激ホルモンが一定レベル10mIU/以上なら甲状腺ホルモン治療の価値あり。それ以外では自己抗体陽性であったり、70歳以上でもホルモンチャレンジで吉と出る可能性のある者は考慮となっています。ただしホルモン投与にてとても元気になればいいのですが、そうでない人もたくさんあって、エビデンスには乏しいとのことです。潜在的低下から真性の橋本病に移行する可能性が高いので、その予防という趣です。甲状腺機能低下は動脈硬化を促進し、心血管合併症につながることもあるため、ホルモンチャレンジは大事のようです。潜在的機能低下症例では血管脆弱性による瘤や解離を私は懸念します。私は、よく患者さんと相談して、少量を隔日や週数回投与で、様子を連絡してもらうようにしています。